ラノベ評:『霊感少女は箱の中』は現代に蘇った学園オカルトだ

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こっくりさん」といえば、誰もが知ってる占い。学生の時に遊び半分でやってみて盛り上がった人も、またそうでない人もいるはず。ただ、この「こっくりさん」は単なるおまじないや占いではなく、立派な「降霊術」の一種であることはあまり知られていない。「降霊術」を、正しい手順で行なえずに失敗すると、どうなるのか――。そういったオカルトの顛末を描いているが、甲田学人の『霊感少女は箱の中』だ。

 

「おまじないを誰かに見られたら、五人の中の誰かが死ぬ」
 銀鈴学院高校に転校してきた少女・柳瞳佳。前に心霊事故に遭遇し退学処分となった瞳佳だが、初日から大人しめの少女四人組のおまじないに巻き込まれてしまう。
 人が寄りつかない校舎のトイレにて、おそるおそる始めたおまじない。人数と同じ数を数え、鏡に向かって一緒に撮った写真。だが、皆の画面に写っていたのは、自分たちの僅かな隙間に見える、真っ黒な長い髪をした六人目の頭だった。
 そして少女のうちの一人、おまじないの元となる少女が、忽然と姿を消してしまい……。
 少女の失踪と謎の影が写る写真。心霊案件を金で解決するという同級生・守屋真央に相談することにした瞳佳は、そこで様々な隠された謎を知ることになる──。

 

引用:電撃文庫公式サイト

 

 

現代に蘇る「オカルト」

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オカルトと聞いて「古臭い!」と感想を持った人もいると思う。一般的なオカルトと言えば、ミステリーサークルだとか、UFOだとか、サバトだとか。心霊写真もオカルトの一種と言える。これらの多くが、現代では作り物だと証明され、デマカセのレッテルを貼られてしまったために、心霊番組の類はめっきり姿を消した。かつて年末には「フォトンベルトに飲み込まれて地球は滅ぶ!」みたいな番組があったものだけど、最近は行方不明だ。興味を持つ人がだいぶ減ってしまったんだろう。

 

しかし『霊感少女は箱の中』で取り扱われるオカルトは、古めかしいものじゃない。たとえば、第1巻で取り扱われるオカルト(おまじない)は、先述したあらすじにもあるとおり、「人数と同じ数を数えて、全員で一斉に鏡に向かって写真を撮る」というもの。このおまじないは、作中でスマホを持って行なわれる。

 

紙とペンを使った――などという古典的なものではなく、かなり現代的なおまじないだ。こういった最近の読者でも受け入れやすい、いわば現代に蘇ったオカルトを題材にしているのが、この『霊感少女は箱の中』というわけ。

 

学園だけに収まらない、圧倒的な「世界観」

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甲田学人作品を読んだことがある人ならなんとなくわかることなんだけど、同先生は悪魔学とか民俗学とか、とにかくオカルトと名のつくものに造詣が深い。深すぎる。どんな文献読んだらそんな情報得られるんだってくらいヤバイ。『霊感少女は箱の中』に出てくる設定のほとんどは実在していたものらしい。ヤバイ。

 

圧倒的な知識量は、今作においても如何なく発揮されている。膨大な知識によって積み上げられた背景があるからこそ、強い信憑性が生まれて、作中人物の行動にどんどん引き込まれてしまう。一度読みはじめたら止まらなくなってしまうタイプの作品であることは間違いない。

 

さらに2巻以降では、学園オカルトを冠しながらも、学園内だけに収まらない組織や派閥の存在も徐々に見えてくる。こう、学外に組織があったりするのは過去作『Missing』を感じさせる作りでとても良い。同作のファンは絶対に読むことをオススメする。そうじゃなくてもオススメするんだけどね。

 

主人公は「解決者」ではなく、あくまで「傍観者」

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往年のミステリなどと違って、本作の主人公・柳瞳佳(やなぎとうか)はあくまで傍観者の立ち位置。オカルトなどにあまり明るくないという点では、作中において限りなく読者に近い視点を持つキャラだ。それゆえに親しみやすく、嫌味があるキャラでもないのでとっつきやすい。ある点を除いてほぼ一般人というのも感情移入しやすい部分があると思う。

 

ところがこの瞳佳にもある秘密が隠されていて、1巻のラストでそれが明かされることにより、思わずもう一度最初から読み返したくなる。この構成はかなり秀逸だった。読み終わってすぐにまた読み返したくなる作品なんてなかなかない。ちなみに主人公の恋愛要素はほぼない。それっぽい場面はあるっちゃある(?)けど、まあ、ちょっとしたスパイスみたいなものと考えたほうがいい。

 

あとは単純に瞳佳がかわいい。超かわいい。ふゆの春秋さんのイラストが超絶美麗でかわいい。これだけでも手に取る価値はある。それで面白んだからもう買うしかない。

 

まとめ

かつて『Missing』を読んでいたー、という人なら間違いなく買い。読んでいなくても買い。オカルト系に興味がある人も買い。可愛いキャラが好きという人も買い。ややグロテスクな表現に耐性があるなら、間違いなく買い。

 

冗談はさておき、『霊感少女は箱の中』は緻密に練られた世界観に基づく重厚な学園オカルトに仕上がっている。少女たちの織りなすオカルトの沼に、あなたもハマってみない?

 

 

 

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