箱庭スタジオ

「どんなときも遊び心」がポリシーのクリエイター・津上夏哉のブログです。

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フェアリー・テイルに感謝する

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■人生で初めて異世界を提供してくれたのは『オズの魔法使い』であり、初めて夢中になった小説は『ロックフォール団のねずみたち』であり、童話と児童文学の世界は今日小説をしたためる源流になっている。それからあらゆることに物語性を求めるようになった。数学の証明は答えを導き出す過程が好きだった。仕事は全体のフローがつかめないと機嫌を損ねた。整合性がとれていないと不安だったのかもしれない。グラついている前歯ひとつにも抜くまでのストーリーを考えていた。結果的には寝ぼけた母親の踵を喰らって二本まとめて御用になったのだけど。

 

■自分の創作が童話に支配されているとは思わない。根幹ではなく源流と書いたのはそういう理由がある。実のところ創作の刺激になっているのは音楽だ。多様な音楽に触れ、秋田ひろむ、波多野裕文高橋國光といった人物の書く詞の虜になって、いつしか文章にリズムを追求するようになって、音楽とともに小説を書いていた。長編や短編集はフルアルバムのようなもの。ひとつひとつの場面に意味がある。ひとつでも欠ければその作品は成り立たない。そういう思いで小説を書いているうちに、人とは違う書き方を始めてしまった気がする。無性に不安になる。

 

■不安になった時、思い出すのは童話の世界。童話には結末がある。あって然るべき結末と、それに応じた教訓が忍ばせられている。物語には必ず意味がある。小説と名乗るからにはテーマたる何かを説く必要がある。人に何かを説くには説得力がなければならない。小説はハッタリの連続だ。魔法をでっち上げ、異世界を造り上げ、実在しない人間の感情を操る。ハッタリもバレなければ正攻法だ。童話はそれも教えてくれた。打ち出の小槌の原理なんて説明されない。竜宮城まで息を止める方法など説明されない。説明する必要がないからだ。正直救われる思いになる。フェアリー・テイルに感謝する。